「キュウリが欲しいんだけど、あるかな」
「ないわけないだろ、ほら、三つで2ウォッカだよ」
「シャリィさん、今日はなにかいいの入ってるかい」
「今日はだね、今日取れたての梨が入ってるよ、さっきもいできたばっかりのやつ
だよ、ひとつどーだい」
「うーん、じゃ三つもらおーか」
「あいよ、じゃもひとつおまけでつけてあげるよ。そう言えばミルさんはまだよくなん
ないのかい?」
「いや、もうだいぶよくなったよ、明日か明後日には、顔出せると思うけど」
「そーかい、そりゃよかった。よろしく言っといてよ」
「ああ、ありがとう」
セルリア王国の首都、メルアデスの東大通りから一本入った小さな通りにその八百
屋はあった。べつに正式な名前もないのだが、まわりの住民からはシャリィさんのお
店として親しまれている。
「そろそろくるころだねぇ」
シャリィは高くなった太陽をまぶしそうに見上げながらつぶやいた。
と、大通りのほうから、女の子が走ってくるのが視界の隅に入った。
「おや、さっそくきたね」
「シャリィさん、こんにちはー」
少女はシャリィの前でたち止まると、元気に挨拶をした。
上品というわけではないが、されたほうが元気をもらうような、・・・そんな挨拶。
長い髪は二つに分けて、リボンで結んでいるが、腰の後ろぐらいでまたひとつにまとめている。
どう見たって、おかしな髪型。
しかし、不思議とその少女には似合っていた。
「エリスいます?」
聞いたきた少女に、シャリィは二階を見上げる。
「今日はまだ見てないからねぇ、いつものようにまだ寝てんじゃないかい」
「またー?!いったいいつまで寝たら気が済むんだか・・・」
「まったくだねぇ、少しはマテルちゃんを見習えばいいのに・・・」
「え?私ですか・・・、私だってそんなに早起きしてないですよ。シャリィさんこそ毎朝とっても早いじ
ゃないですか」
マテルと呼ばれた少女があわてて否定した。
「まー、私の場合は早起きしないと仕事になんないからね」
そういって豪快に笑いながら、シャリィはマテルにトマトを二つ渡した。
「今から上に上がるんだろ?持ってってあげな」
「いいんですか?」
「なーに、代金はあとでエリスの家賃といっしょにもらっとくよ」
もちろんそんなことをするような人物ではないのがわかってるので、マテルも笑って受けとる。
「じゃ、遠慮なくもらっときます」
そのまま、店の裏へ回ると、2階への階段を駆け上がった。